「トラシンにまで怪我をさせるつもりはなかったんだが」
「きみのいとこの?」
 レルドリンは憂うつそうにうなずいた。「アリアナとぼくは、とりAmway傳銷あえずレルディゲン伯父のもとに身を寄せることにしたんだ。だがトラシンのやつが彼女にけちをつけはじめた。何といってもアリアナはきっすいのミンブレイトだし、やつときたら偏見のかたまりだからな。ぼくはきわめて丁重に抗議した――自分ではそのつもりだったんだが、トラシンを階段の下まで殴り倒した後は、やつは決闘するといって聞かなかった」
「かれを殺したのかい」ガリオンはショックを受けたような声で聞いた。
「むろん殺しゃしないよ。ただやつの足を刺し貫いてやっただけさ――それもほんのちょっぴりね」
「足を刺してちょっぴりも何もあったもんじゃないよ、レルドリン」ガリオンは思わず怒りを含んだ声を出した。
「ぼくのこと見損なっただろう? そうなんだな、ガリオン」アストゥリアの若者は今にも泣きださんばかりだった。
 ガリオンは目を上に向けてどうしようもない、といったしぐさをした。「違うよ、レル一咭兩號儲值卡ドリン。決してきみを見損なったわけじゃない。ただ、何というか――少しばかり驚いてるだけだ。ほかに覚えていることはないのかい。言い忘れたことなんてないだろうね」
「噂によればアレンディアで、ぼくはおたずね者のようなことになってるらしい」
「おたずね者のようなことというのは?」
「王はぼくの首に賞金をかけたんだ――少なくともぼくはそう聞いている」
 ガリオンは力なく笑った。
「おい、本当の親友というのは友の不幸を笑ったりしないもんだぞ」若者は傷ついたような表情を浮かべてこぼした。
「それだけのもめごとをたった一週間で引き起こしたのかい」
「だが何ひとつぼくのせいで起こったわけじゃないぞ。ただ事態が手におえなくなってしまっただけだ。それでもレディ?ポルガラがこれを聞いたら怒るだろうな?」
「ぼくから話してみるよ」ガリオンは血の気の多い友人を安心させるように言った。「おばさんとマンドラレンからコロダリン王に頼んで、きみの首にかかっている賞金だけは取り消してもらえるようにしよう」
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「きみとマンドラレン卿の二人だけで、マーゴ人のナチャクと手下どもを一人残らず、ボー?ミンブルの謁見の間で倒したというのは本当かい」レルドリンはだしぬけにたずねた。
「どうも事実とはだいぶ違った話が伝わってるらしいね」ガリオンが答えて言った。「ぼくがナチャクを告発して、マンドラレンがぼくの話が本当だということを証明するために戦いを挑んだだけのことだよ。ナチャクの手下がマンドラレンに襲いかかりそうになったところに、バラクとヘターが首尾よく駆けつけたというわけなんだ。だから、じっさculturelle兒童益生菌いにナチャクを倒したのはヘターなんだよ。むろんぼくらはきみとトラシンの名前が出てこないようにしておいたけれどね」
「きみこそ真の親友だよ、ガリオン」
「ここに来てるだと?」バラクの声がした。「いったいここへ何しに来たんだ」
「わたしやイスレナと一緒に来たのだ」アンヘグ王がこたえた。
「彼女は――」
 アンヘグ王はさらに言葉を続けた。「きみの息子もいっしょだよ――むろん娘たちも」
「息子はどんなようすですか」バラクはせきこむようにたずねた。
「でっかい赤毛の獣のような男の子だよ」アンヘグは笑いながら言った。「おまけに空腹になると、一マイル四方に聞こえそうな声で泣きわめくのさ」
 バラクはしまりのない顔でにやにや笑うばかりだった。
 階段を登りきり、大広間の前の狭い控え室にさしかかったところで、おそろいの緑色のマントを着てばら色のほおをした少女が二人、そわそわと一行の到着を待っていた。赤みがかった金髪をみつ編みにした少女たちはエランドよりもわずかに年上のようだった。「おとうさま!」小さい方の少女が金切り声をあげてバラクに駆けよってきた。大男は少女を抱き上げると音をたててキスをした。一、二歳年上らしいもう一人の少女はいくらか威厳のようなものを漂わせて近づいていったが、あっと言う間に父親の腕にさし上げられた。
「おれの娘たちだ」バラクは残りの者たちにむかって言った。「こちらがグンドレッド」かれは赤いあご髭に姉妹を押しつけるようにして言った。少女は父親のちくちくする髭の感触にくすくす笑った。「こっちのおちびさんはテルジーだ」かれは妹娘に愛情のこもったまなざしを送った。
「あたしたちにちっちゃな弟が生まれたのよ、おとうさま」年上の娘はしかつめらしい顔で言った。
「ほほう、そいつはすばらしい」バラクはせいいっぱい驚いたふりをしてみせた。
「おとうさまったらもう知ってたのね!」グンドレッドが非難するような声を出した。「あたしたちが一番はじめに教えるはずだったのに」
「弟の名前はウンラクというのよ。おとうさまとおんなじ真っ赤な髪の毛をしているわ」テルジーが言った。「でもまだお髭がないの」
「今に生えるから大丈夫だよ」バラクは娘を安心させるように言った。
「ものすごくおっきな声で泣くの」グンドレッドが報告した。「それに歯が一本もないの」
 そのときリヴァの〈要塞〉の巨大な扉が勢いよく開き、赤いマントをまとったイスレナ王妃が、愛らしい金髪のアレンド人の娘とバラクの妻メレルを引きつれて姿をあらわした。メレルは全身緑色の衣服をまとい、腕に毛布でくるまれた包みを抱いていた。彼女の顔は誇らしさにあふれていた。
「わが夫にしてトラク卿よ」彼女は固苦しく儀式ばった口調で言った。

「わたくしは無事お役目を果たしました」メレルは毛布でくるまれたものをさし出した。「どうかトレルハイムの後継ぎたるあなたさまの息子をごらん下さいませ」
 バラクは何ともいえない不思議な表情を浮かべて、娘を床におろした。かれは妻のもとに近づくと、毛布にくるまれた包みを受け取った。大男は無骨な指をぶるぶる震わせながら、初めての息子の顔を見るために毛布をそっとめくった。ガリオンの方からは赤ん坊の髪しか見えなかったが、それが父親とそっくり同じ赤色だということだけはわかった。
「ウンラク、トレルハイムの後継ぎにしてわが息子よ」バラクはがらがら声で赤ん坊に話しかけた。そしてかがみこむと手の中の小さな息子にキスをした。髭のちくちくする感触に赤ん坊はくっくっと笑い声をたてた。かれは小さな二本の手をのばして父親の髭をつかむと、子犬のように頭をすり寄せた。
「こいつはなかなかの腕力の持ち主だぞ」赤ん坊に髭をひっぱられて顔をしかめながら、バラクはかたわらの妻に話しかけた。
 メレルの瞳に驚いたような色が浮かんだが、あいかわらず顔は無表情のままだった。